2000万円は、すべての人に共通する老後資金の正解として決められた金額ではありません。平均的な夫婦無職世帯の毎月の赤字を20〜30年分へ伸ばした試算が出発点です。いまの平均家計に置き換えると金額はどう変わるのか。さらに、準備期間20年で積み立てる場合の毎月額まで順に見ていきます。12
「2000万円」の出発点は月約5万円の赤字
2019年6月に金融審議会の市場ワーキング・グループへ示された「高齢社会における資産形成・管理」報告書案は、高齢夫婦無職世帯の平均的な赤字を月約5万円としました。金融資産から取り崩して補う場合、20年で約1300万円、30年で約2000万円が必要になるという単純計算です。1
この約2000万円が、いわゆる「老後2000万円問題」の中心になりました。同じ資料は、金額が平均の不足額から導いたもので、収入、支出、生活スタイルによって大きく異なり、不足しない場合もあると説明しています。2000万円は一律の最低額ではなく、当時の平均家計を30年へ伸ばした目安でした。1
2025年は夫婦月4万2434円、単身月2万9980円
総務省統計局の「家計調査報告 2025年平均結果の概要」では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入は月25万4395円、非消費支出は3万2850円、消費支出は26万3979円でした。税や社会保険料などを引いた可処分所得は22万1544円で、家計の赤字は月4万2434円です。2
65歳以上の単身無職世帯は、実収入13万1456円、非消費支出1万2990円、消費支出14万8445円で、赤字は月2万9980円でした。夫婦と単身の差は月1万2454円です。世帯人数が半分でも赤字が半分にはならず、単身の赤字は夫婦の70.7%に当たります。2
30年では夫婦1528万円、単身1079万円
2025年の月間赤字が同じまま続くと仮定すると、夫婦は20年で1018万4160円、30年で1527万6240円です。単身は20年で719万5200円、30年で1079万2800円になります。表示を万円単位に丸めると、夫婦は約1018万円・約1528万円、単身は約720万円・約1079万円です。2
2019年の約2000万円と比べると、2025年の夫婦家計から計算した30年分は約472万円少なくなります。数字が小さくなった理由は、老後の不安が約472万円分消えたからではなく、計算の起点にした平均家計の収入と支出の差が変わったからです。12
1528万円をそのまま新しい目標額にしない
ただし、1528万円を新しい「正解」に置き換えることもできません。2025年の夫婦世帯の平均年齢は77.6歳で、65歳から始まる30年間の家計をそのまま表したものではないからです。単身世帯も平均年齢は77.8歳でした。住居費や医療費を含む支出構成も、自分の年齢、持ち家、健康状態で変わります。2
厚生労働省の2025年簡易生命表では、65歳の平均余命は男性19.68年、女性24.52年です。20年は平均余命に近い期間、30年は95歳まで備える長めの期間と置けます。2019年資料が明記したとおり、約2000万円の計算には老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用といった特別な支出も含まれていません。31
2000万円を20年で準備、月4万8658円〜8万3333円
準備期間を20年とし、毎月末に同額を積み立てる条件で試算します。運用しない場合は「目標額÷240カ月」、運用する場合は年率を12で割った月次複利で逆算しました。想定利回りは運用なし、年3%、年5%の3通り。手数料は考慮せず、利回りが期間中ずっと一定という仮定です。65
夫婦の30年分に当たる1527万6240円なら、運用なしで月6万3651円、年3%で月4万6531円、年5%で月3万7165円です。目標を2000万円にすると、運用なしは月8万3333円、年3%は月6万0920円、年5%は月4万8658円。年3%の仮定では、目標の違いによって毎月1万4389円の差が生じます。265
NISAでは投資による運用益が非課税です。金融庁のNISA制度案内によると、つみたて投資枠は年120万円、非課税保有限度額は取得額ベースで1800万円です。2000万円を運用なしで積み立てると元本だけで総枠を200万円超えるため、NISAだけには収まりません。年3%試算の元本は約1462万円、年5%は約1168万円で、取得額は総枠内です。46
NISAは税制上の器であり、年3%や年5%を約束する制度ではありません。金融庁の資産形成の基本は、投資には元本割れのおそれがあると説明しています。利回りを高く置くほど必要な毎月額は小さく見えますが、目標未達の可能性も残ります。つみたてシミュレーターでも、自分が続けられる積立額と期間から条件を変えて確認できます。56
Money Now編集部の見方:2000万円より先に自分の赤字を置く
老後資金は、目標額から逆算する前に、自分の不足額を作るほうが具体的です。支出から退職後の手取り収入を引いて毎月の不足額を出し、備える年数を掛け、介護、住宅修繕、車の買い替えなど自分に必要な一時支出を足します。そこから現在の老後用資産と受け取る見込みの退職金を引けば、これから準備する金額が見えてきます。15
- 家計簿から退職後にも残る月間支出を出す
- ねんきんネットで年金見込額を確認し、退職後の手取り収入を置く
- 毎月の不足額×備える月数に一時支出を足す
- 現在の老後用資産と退職金を引き、積立期間で割る
- 投資へ回す額だけ、0%を含む複数の利回りで試算する
年金額はねんきんネットの年金見込額試算で、今後の収入や就業期間、受給開始年齢を変えて比較できます。2000万円を先に目標へ置くより、「退職後の毎月不足額×備える年数」に一時支出を足し、現在の貯蓄や退職金を引く順番が実用的です。NISAは、その結果として長期間使わない資金を積み立てる選択肢として使うのが筋でしょう。754












